働き方改革関連法により、労働基準法が改正され、2019(平成31)年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇(「年休」)が付与される労働者に対して、年休の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要になりました(労基法39条7項)。
厚労省労働基準局長の通達によると、この時季指定については、就業規則に記載する必要があるとされています。(https://www.mhlw.go.jp/content/000465759.pdf 14ページ 問14)
ただ、労働者数10名未満の事業所については、そもそも就業規則の作成義務がありません(労基法89条)。この場合、使用者は就業規則なしに年休の時季指定ができると理解して良いのでしょうか。
これに関して文献や資料を探したのですが、就業規則なしに時季指定できるorできないと明記している資料は見つかりませんでした。
条文の建付けからすると、就業規則への記載なしに時季指定することは労基法89条違反であって、就業規則の作成・届出義務に違反しているにすぎないので、就業規則の作成・届出義務がない事業場については、法令上要求される条件を満たして時季指定すれば、違反はないと考えるのが自然なように思います。
(厚労省の資料 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2019/190315jinzai04.pdf や長野労働局の回答https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_119807/mondai01_10/soudan7.htmlは、労働者数10人未満の事業場について注を設けているのですが、これもそのような趣旨と解釈できると思います。)
また、この件について、働き方改革関連法の相談窓口である働き方改革推進支援センター(http://xn--w8j7lma1stb7206aukrj1mttan2hddx6e907lgivdsvwa.site/)に電話して確認したところ、「就業規則の作成義務のない事業所の場合、就業規則なしに時季指定できる。時季指定できるというより、年休を年5日以上取らせる義務があるので、必要なら時季指定しなければならない。」という趣旨の回答が得られました。
確かに、年休の時季指定は、労働者の年休権を実現するための手続(=労働者に有利)なので、そのような理解からすると、就業規則なしに時季指定できるという考えが有力かと思います。
ただ、年休の時季指定は、本来労働者が好きな時季を選んで取得できる年休について、使用者が時季を指定するという労働者に不利な側面もあります。
労働者に不利な行為を使用者がする場合には、法令又は契約等の法的根拠が必要というのが労働法の原則だと思うので、時季指定にあたって契約上の根拠が不要と言い切って良いのか、労基法39条7項が労働者との関係で時季指定をする法的根拠になっていると考えてよいのか、疑問が残るところです。
表題の質問について、結論的には、就業規則の作成届出義務のない事業所については、就業規則なしに時季指定できると考えるのが有力と思われるのですが、仮にクライアントから同じ質問をされて回答するのだとすると、そこまで断言するのは躊躇するなぁと思いました。