破産者が不動産を所有した状態で破産した場合、破産者の財産を管理する破産管財人は、まず、この不動産の売却を試みる。売却ができれば、固定資産税は、通常の不動産売買と同様の形(その年に発生するものを当事者間で精算し、翌年以降に発生するものは新所有者である買主が納税)で処理される。
破産管財人が売却を試みたものの、売却ができなかった場合(買受希望者が見つからなかったり、希望者は見つかったけれども担保権者の同意が得られなかったりする場合等がある。)は、破産管財人は、この不動産を売却することを諦め、破産財団から放棄する手続(破産法第78条第2項第12号参照)を取る。破産財団から放棄されると、その資産は破産管財人の管理対象から外れることになる。
破産財団から放棄された不動産は、破産者が個人である場合は、破産者の自由財産として、破産者に管理処分権が復帰する(最判平成12年4月28日判時 1710号100頁参照)。そのため、個人の破産者の不動産を破産管財人が放棄した場合は、翌年以降に発生する固定資産税は、所有者である破産者から取り立てれば良いことになる。
破産者が法人である場合も、破産管財人が不動産を放棄すると、破産者に管理処分権が復帰することになる(前掲最判平成12年4月28日)。そのため、請求の相手は当該法人になるが、具体的な請求は、法人の持つ当該不動産の管理処分権を執行する権限を持った人物に対してしなければ意味がない。
破産管財人は対象不動産を放棄していて、その不動産に関しては何の権限も持っていないので、破産管財人を請求の相手とすることはできない。
また、破産した法人の代表者についても、破産者の役員は、破産者と委任関係にあり、この委任関係は、委任者である破産者が破産手続開始の決定を受けた時点で終了している(民法第653条第2号)ため、代表者に請求することもできない。
さらに、破産した法人は解散したものと扱われ(会社法第471条第5号)、解散した時には取締役が自動的に清算人に選任されるはず(会社法第478条第1項第1号参照)だから、この清算人に請求すればよいのでは?という考え方もあるが、破産した法人の場合は、通常の会社の解散の場合と異なって、取締役が自動的に清算人に選任されるわけではないとされている(最判平成16年10月1日裁判集民215号199頁参照)。会社法第478条第1項第2号や第3号に基づく清算人(定款や株主総会決議に基づく清算人)がいれば、それによって清算人が現れることはあるが、可能性は高くない。
つまり、法人である破産者の破産管財人が不動産を放棄した場合は、破産した法人の法人格は残っており、放棄された不動産の管理処分権もそこに帰属しているものの、(殆どの場合)法人の持つ管理処分権を執行できる人物がいない状態ということになる。
このままだと、固定資産税の請求をする具体的な相手がいないことになるため、市町村側の対応としては、次の2つが考えられる。
1つは、会社法第478条第2項(会社以外の法人の場合は適宜の法令)に基づき、清算人の選任を裁判所に申し立てる方法である。清算人が選任されれば、清算人を相手に固定資産税を請求することができる。
ただ、破産者である法人は、破産するくらいなので、固定資産税の支払原資がない可能性が高い上、清算人の選任を申し立てるには、かなりの金額の予納金を裁判所に納めなければならない。
それを考えると、固定資産税の取り立てのために清算人の選任を申し立てるのは、あまり現実的ではない。
2つ目は、不動産の所有者が変わるのを待つという方法である。
管財人が放棄するような不動産であれば、かなり高い確率で、担保権が付いていたり差押が入っていたりするため、放棄後に競売や公売にかかる可能性がある。これが進めば、不動産の所有者が変わる可能性が高いため、所有者が変わった年より後については、新所有者に固定資産税を請求することができる。
また、場合によっては、固定資産税を徴収しようとする市町村自身が、(放棄後に発生した)固定資産税の滞納を理由として、その不動産を差し押さえて公売にかけることも考えられる。
不動産の所有者が変わるのを待つ方法を取る場合、所有者が変わらない期間の固定資産税は、請求困難なため、現実的には時効にかかるのを待つことになると思われる。
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上記について、私が調べた限り、そもそも触れられている資料がほとんどなく、確定的な考え方はないようです。この記事も、思考実験的なものなので、疑問点などありましたらコメントをお願いします。